成果に出ない仕事
「あれ、お願いしていた件どうなってる?」「え、そちらでやると思っていました」。
この二往復で、その日の30分が消えます。しかもこの30分は、どの数字にも残りません。売上にも、工数にも、評価にも出てこない。だから誰も問題だと思わないまま、翌週も同じことが起きます。
伝達のやり直しは、業務ではなく損失です。ところが「コミュニケーションの問題」と呼ばれた瞬間に、なんとなく仕方のないもの、個人の相性の問題として扱われてしまいます。
設備の不具合で毎週30分止まる工程があれば、すぐに改善案件になります。同じ30分が会話の行き違いで消えているとき、案件にはなりません。見えないからです。
なぜ「ちゃんと伝えた」のに伝わらないのか
伝えた側には、たいてい落ち度がありません。メールも送った。口頭でも言った。それでも伝わらない。
起きているのは、こういうことです。伝えた側は「全体の方向」を伝えたつもりでした。受け取った側は「具体的な手順」を待っていました。方向を聞いた受け手は「まだ何も決まっていない」と受け取り、動きませんでした。
どちらも嘘をついていません。同じ会話の、違う部分を持ち帰っただけです。
そしてこのズレは、伝えた直後には見えません。両者とも「話は済んだ」と思って別れます。姿を現すのは締切の前日、あるいは当日の朝です。そこから巻き返すために、本来なくてよかった残業が発生します。
伝達のやり直しは、業務ではなく損失です。
「気をつける」では止まらない
この手のズレに対して、多くの職場がとる対策は「気をつける」です。もっと丁寧に伝える。もっとこまめに確認する。
しばらくは効きます。そして忙しくなると、必ず元に戻ります。気をつけることは、余裕があるときにしかできないからです。そして伝達ミスがいちばん増えるのは、余裕がないときです。対策が必要な場面で対策が機能しない、という構造になっています。
止まるのは、伝え方に「型」があるときだけです。誰が誰に伝えるときも同じ順番で、同じ項目を埋める。型があれば、忙しくても抜けません。個人の丁寧さに頼らなくてよくなります。
工程にチェックリストを入れるのと同じ発想です。作業者の注意力を上げるのではなく、注意力が落ちても抜けない形にする。会話にも同じことができます。
「確認しなかったほうが悪い」で終わらせない
行き違いが起きたあと、職場でよく交わされるのは責任の話です。伝えた側が悪いのか、確認しなかった側が悪いのか。
この議論に答えは出ません。どちらにも言い分があり、どちらも自分の側から見れば正しい。そして議論した結果、次から気をつけようという結論になり、また戻ります。
問うべきは、誰が悪いかではありません。「この伝達に、抜けを止める仕組みがあったか」です。なかったのなら、次に同じことが起きるのは当然で、そのときも誰も悪くありません。
自社で確かめられること
先月、社内で「言ったはずだ」が起きた場面を3つ書き出してみてください。
3つとも別の人どうしで起きていたなら、それは相性の問題ではありません。伝え方が個人任せになっている、という組織の問題です。
逆に、いつも同じ二人の間だけで起きているなら、対処はずっと簡単です。どちらの場合も、まず「どちらなのか」を見分けるところからです。