2026年8月15日評価・育成

同じ仕事ぶりが、上司が代わると別の評価になるのはなぜか

異動で上司が代わった。仕事のやり方は何も変えていない。それなのに評価が一段下がった——。部下の問題でも、新しい上司の意地悪でもないことがあります。

誰も嘘をついていないのに、評価だけが変わる

昨年度までA評価だった中堅社員がいます。上司が異動で代わり、本人はそれまでと同じように働きました。年度末の評価はBでした。

本人は「新しい上司とは合わない」と受け取ります。新しい上司は「前任の評価が甘かったのだろう」と考えます。前任の上司は「彼の良さを分かっていないな」と思います。

三人とも本気でそう思っていて、三人とも嘘をついていません。そして、おそらく三人とも間違っています。変わったのは部下の仕事ではなく、評価する人の「どこを見るか」のほうだからです。

評価表の言葉は同じでも、読み方が違う

多くの会社には共通の評価基準があります。「主体性」「協調性」「課題解決力」。言葉は全社で統一されています。ところが、この言葉の中身は評価者ごとに違います。

「主体性」を、ある上司は「自分から数字を取りにいくこと」と読みます。別の上司は「指示される前に段取りを整えておくこと」と読みます。また別の上司は「会議で最初に意見を言うこと」と読む。どれも間違いではありません。そして同じ部下が、最初の上司の下ではAになり、次の上司の下ではBになります。

人には、情報を受け取るときに最初に見る場所——入口があります。数字から見る人、段取りから見る人、人の気持ちから見る人。評価とは情報の受け取りそのものですから、この入口の違いがそのまま結果に出ます。数字で見る上司の目には数字を出す部下がよく映り、段取りで見る上司の目には準備の丁寧な部下がよく映る。

評価表は、この違いを吸収してくれません。むしろ言葉が同じであるせいで、読み方が違うことに誰も気づけなくなります。

評価が運になった職場では、努力の向き先が仕事から顔色に変わります。

本当のコストは、不公平感ではない

評価のばらつきの害は「不公平だ」という不満だと思われがちですが、より深いのはその先です。評価は上司次第だ、と部下が学習することです。

評価が運になった職場では、努力の向き先が変わります。仕事の質を上げることより、いまの上司が何を見ているかを探ることのほうが、評価には確実に効くからです。上司の関心を読むのがうまい人が上がり、仕事そのものに集中する人が割を食う。「うちの社員は上ばかり見ている」という嘆きは、社員が合理的に行動した結果でもあります。

異動も怖くなります。上司が代わるたびに評価が引き直されるなら、異動はくじ引きです。新しい仕事に手を挙げる人が減っていきます。

そして評価面談が変質します。基準が人によってぶれている自覚は、上司の側にもうっすらあります。だから面談は、決まった結果を角を立てずに伝える儀式になります。育成を話すはずの場が、防御の場になります。

増やすべきは項目ではなく、すり合わせ

ばらつきへの対策としてよく行われるのは、評価項目を細かくすることです。項目を増やし、定義の文章を長くする。残念ながら、あまり効きません。言葉をいくら増やしても、読む人の入口は変わらないからです。

効くのは、評価者どうしが同じ事実を見て、読み方を突き合わせることです。具体的な行動を一つ机に置いて、「この行動を、あなたは主体性と呼びますか」と横に並んで話す。すると、自分の読み方に偏りがあったことが、初めて見えます。

自分の入口は、自分では見えません。他の評価者の読み方と並べたときにだけ見えます。評価のばらつきは、制度の不備である前に、評価者どうしの対話の不足です。制度をいじる前に、読み合わせの場を持つほうが早いことが多いのです。

自社で確かめられること

評価者が集まる場で、一つ聞いてみてください。「あなたの部署でいちばん評価が高い人は、何が評価されていますか」。

返ってくる答えを並べてみてください。評価表の言葉ではなく、それぞれの上司の得意分野の言葉になっていないでしょうか。数字に強い上司からは数字の話が、段取りに強い上司からは段取りの話が返ってくるなら、評価されているのは部下の仕事だけではない、ということです。

「うちはどうだろう」と思われたら。

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